珍獣日記④(2026.1.22~1.27)

来る2026年2月3日、KADOKAWAより私の初の長編小説『珍獣に合鍵』が発売されます。この「珍獣日記」は、『珍獣に合鍵』をたくさんの方に手にとってもらえたらいいなという願いを込め、発売日までの期間限定で公開を前提に執筆したものです。

1月22日(木)

6時過ぎに起きて夫の弁当を作る。長谷川あかりレシピの即席にんじんグラッセ、鶏むね肉の梅ワイン蒸し、粉チーズとはちみつで味付けした洋風の卵焼き。昨日買ったサラダ菜を敷き詰めておかずを詰め、ごはんにふりかけをかけたらいい感じに仕上がったので満足した。

朝食は今日もお茶漬け。コーヒーを淹れてクルミッ子を食べる。

夫が出かけてから、富田ララフネ『θの散歩』を少し読む。9時からのダイエットキックボクシングに行かねば、と8時28分に思いつき、慌てて支度をして12分後に家を出た。

久々のキックボクシングでランジスクワットをして、足がぷるぷるになる。

帰宅して仕事していたら、取引先の人からぶしつけな枕詞のついたメールが来て、失礼ハラスメントだ! とつぶやく。失礼ハラスメントというのは、「おそらくセクハラでもパワハラでもないんだけれど、仕事上の付き合いでしかない相手に対して軽口をたたいて距離を縮めようとしてくる人の、向こうは軽口のつもりだろうけど失礼な発言」のことです。もっといいネーミングがあると思うんだけれどまだ見つからない。何も面白くないしただ不愉快なだけで、舐められてるなあ、と思う。

昼食に、今朝作った弁当の残りのおかずとごはんを食べる。

LOOPの耳栓をつけると、周囲の雑音が遠のくというか自分が海の底に潜ったような感じがして、読書や執筆がはかどってとてもよい。日記を更新して『θの散歩』をまた読み進める。

某寄稿のゲラが届いていたので確認して戻す。

18時前に家を出てジュンク堂池袋本店の9階イベントスペースへ。こだまさんの『けんちゃん』発売記念の五大ドームツアー初日で、こだまさんと高石智一さんのトークイベント。『おとちん』から『けんちゃん』発売までの9年間の話を聞かせてもらう。『おとちん』がきっかけでいろんな人に怒られたという話やセクハラ的なDMが来たという話、ふたりの話術が巧みで思わず笑ってしまったけれど、大変な状況だったに違いない。けんちゃんのモデルになった、リアルけんちゃんの話が聞けたのもよかった。質問を読み上げられてこだまさんに回答してもらえてうれしかった。

サインをもらって、会場にいた遊牧菜々さんが外で待っていてくれたので一緒に帰る。遊牧さんと久々にいろいろと話せてうれしい。一緒に文フリに出ていたとき、まだお互い二十代だったので、それから十年以上経ってもお互いに書くことを続けていて、こうしてイベントで会えるのがうれしい。今度ごはんに行こうという話をする。

2月15日の荒川町BOOK PARTYの件が情報開襟になる。告知をする。

帰宅。夫は気力が沸かなくて帰宅してから私が帰るまで何もできなかったと言う。

1月23日(金)

朝食は、切り干し大根の味噌汁とごはんを夫が作ってくれる。夫は眠れなかったらしい。

コーヒーを飲んで出勤する。

人が先に乗っていたエレベーターに後から乗り込もうとしたら、乗っていた人がスマホを見ていて開ボタンを押さなくてドアに挟まれた。痛かった。特に謝罪もなく、その人は私が降りるときにも開ボタンを押さなかった。昨日に引き続き、また、舐められてるなあ、と思う。

ばたばた働いていたら机の上に山積みしていた資料が雪崩れる。つるつるしたファイルの上に、紙を大量に積んではいけないよ。

お弁当お休みの日なので、コンビニで買っていった適当な弁当をもそもそ食べる。

『珍獣に合鍵』の見本が今日自宅に届く予定なので、仕事中にそわそわしていた。システムの変更がうまくいかなかったけれど、明日の私に丸投げして早めに退勤することに。

スーパーで夫に頼まれた夕飯の食材を買って、頼まれていないいちごも買って、急いで帰る。再配達依頼をしたら、すぐに荷物を持ってきてくれてありがたい。開封するときに心臓がばくばくした。本がすてきでうれしい。思わずなで回す。遊び紙がかっこいい。写真を撮ってアップする。うちのワーキングスペースと本の色味が合いすぎている。うれしいなあうれしいなあ。

自分の書いた小説が本になるというのは商業出版一作目のエッセイのときの感覚とはまた別だ。エッセイは私自身が本になったというか、自分の分身のような感じだった。小説はゼロからこの世に新しく生み出したという感覚。

本当に、自分が小説の本を出版するんだなあ、としみじみしていたら、ふと、亡くなった父方の祖父のとあるエピソードを思い出した。祖父は国語が得意で、若い頃作家になりたかったらしい。私も、子どもの頃読書が好きで「作家になりたい」と言っていたので、祖父は私に作家になることを期待していたようだ。堅実志向の我が家の構成員たちの中で、きっと祖父と私だけが異質だった。その祖父に高校時代に言われたことを、ずっと忘れていたのにふと思い出した。この話をエッセイのフリーペーパーにして、2月の文フリ広島と荒川町BOOK PARTYでイベントで配ろうかなと思う。

夕飯の鶏団子の鍋を夫と一緒に作ることになっていたので、夫が帰ってくる前に下準備を始める。蓮根と生姜をみじん切りにして三つ葉を小口切りにする。

夫が帰ってきたので、『珍獣に合鍵』の見本を見せた。夫は本をちらっと見て、よかったね、と言った後で手を洗いにいった。

蓮根と鶏挽肉と三つ葉と調味料を入れて混ぜると、夫がお団子に成形してスープに投入していく。私はその間に鍋に入れるしいたけやえのきや油揚げなどの具材を切ったり洗い物をしたり。ふたりで料理をするのは楽しい。出来上がった鍋はとてもすてきだった。スープにも蓮根のすりおろしを入れたのでとろみがついていて温まる。鶏団子がごろごろたくさん入っていてお腹もいっぱいになった。鍋を食べながらカナメストーンが鍋を作って食べる動画を観た。デザートはとちおとめ。

献本に同封した『珍獣に合鍵』の内容紹介のペーパーに書かれた担当編集さんのコメントに泣きそうになる。

1月24日(土)

朝食は昨日の鍋とごはん。コーヒーを淹れてクルミッ子切り落としも食べる。

仕事に行く。エレベーターに乗ろうとしたら、昨日私をドアに挟んで知らんぷりした人がエレベーターが来るのを待っていたので、踵を返して階段を使った。数十秒とはいえ、嫌な人と密室で二人きりになるのが嫌すぎる。

スケジュールの変更で、朝からぶっ通しで働く。そして昼食。夫が作ってくれたお弁当は天かすの衣をまとったささみフライと長芋フライに塩だれキャベツ。お腹いっぱいになる。

午後もひたすら仕事。急にいろんな仕事があれやこれやと降ってきて、自分が絶対に手を抜かずにやりたい仕事も来週控えていて、ばたばたしている。雑音をシャットアウトしたくてLOOPの耳栓が活躍する。

夕方、大急ぎでいろんな仕事を終わらせて退勤して浅草橋の串揚げ屋・テンテコマイへ。一年以上ぶりにロッキーと会えた。いつも通り、次々に各々の好きな串を付箋に書いて注文していく。牡蠣や白子や蓮根など、私の好物の冬らしい串がたくさんあってうれしい。ロッキーは納豆串をお代わりしていた。

お互い来年40歳になるので盛大に祝いたいねという話をする。「ダブル成人式」というロッキーが口にしたフレーズが大変気に入った。お友達各位、来年ダブル成人式ことちょっとしたパーティーしよ!振り袖でもドレスでもなんでも好きな服着て集まろ!

年が明けてから、数年ぶりにネットに日記をアップしているので、友人に会って近況報告をして「それ日記で読んだよ」と言われるのも数年ぶりだった。

プロントに移動してお茶をしてハロプロの話をしてから解散。

帰宅する。夫と久々に会ったような気がする。

喉に若干の違和感。まりから送られてきた漫画を読んだ感想を送り、日付が変わる頃寝る。

1月25日(日)

7時台になんとか起床した。朝食に小ねぎとちくわとハムの味噌汁と冷凍してあった混ぜご飯のおにぎり。

今日は新春恒例・川崎大師に護摩祈祷にいく日。夫と一緒に行くのも三回目かと思うと感慨深い。一回目のときはまだ結婚していなかった。

最寄り駅から乗る予定の電車に乗り遅れて、品川駅の乗り換えでダッシュし、なんとか予定通り10時からの回に間に合った。

開始直前に会場入りしたのでセンターでなくサイドの方の席になり、護摩のラストで火がばあっと燃え上がるところが見えなかったので、心の中で火を燃やした。

私がお札をもらう列に並んでいる間に、夫がペットボトルのお茶を買いに自販機を探しに行ってくれた。列に戻ってきた夫が、「鳥居の前で、散歩中の大型犬2匹がうーってにらみ合って喧嘩してた。一匹はでかいサモエドだった」と報告してきた。夫は犬が好きで、犬とすれ違うときは振り返ってにこにこしているし犬について話すときもうれしそうだ。動物の動画なんてまったく見ていないよと言うが、夫のYouTubeアカウントのサジェストはハロプロとアニマルで埋め尽くされている。

夫と一緒に飲み物を買いにいかなかったのを悔やんだ。私は夫の目に映る犬を全部目撃したい。夫に出会い夫に愛でられる犬の姿をちゃんとこの目で確かめたい。犬に嫉妬しているのか夫に嫉妬しているのかわからない。

先週Typicaのパフェを食べたことでにわかパフェブームが到来した私たち。川崎にパフェなんておしゃれな食べ物があるわけないよー、と失礼なことを言い合っていたが、検索したら普通にあった。川崎駅に戻ってアトレ4階のフタバフルーツパーラーへ。昼前なので座席に空きが多かった。数量限定の紅白苺の贅沢パフェとコーヒーをふたつずつ注文する。

静かな店内でパフェの到着を今か今かと待っていたら、隣の席に父・母・中学生くらいの男の子の家族連れが来た。その母親の声や話し方が、前に仕事で関わってひどい目にあわされた私の苦手な人にとてもよく似ていて、聞いているうちに脂汗が出てきた。聞こうとしなくても、耳を飛び越えて心臓のあたりにぐさぐさ突き刺さってくる。夫とLINEで筆談し、事情を説明して、鞄に入れてきたLOOPの耳栓をすることに。完全に遮音されるわけではないけれど、声が5メートルくらい遠ざかった感じがして随分落ち着いた。夫が「じゃあ俺も」と言ってAirPodsを取り出したので、耳栓とAirPodsの片方を交換して、ふたりとも片耳にAirPods、片耳に耳栓をつけてハロプロの動画を観ることに。

そうこうしているうちにパフェが運ばれてきて、夫のスマホの画面をのぞき込み音楽を聴きながら、紅白の苺を交互に食べた。ミルクアイスクリームはコクがあって、カシスシャーベットはさっぱり目の覚めるような味でおいしかった。耳も目も口も幸せになったので結果的によかった。

パフェを食べ終えて店を出た後、ベッドサイドに置いていたルームフレグランスがなくなったのでよさそうなものを探すことに。アゼリアのフレグランス専門の小さな店に行っていくつかのフレグランスの香りを比べていたら店員さんが丁寧にあれこれ教えてくれてよかった。ヒーリングウッドのルームフレグランスを購入した。

近所のスーパーに寄って食材を購入した。卵や加工肉が売られているエリアの特設棚にマルセイバターサンドを発見してしまい、ふたりで立ち止まり顔を見合わせた。夫がこそこそと買い物かごの中にマルセイバターサンドを滑りこませ、肉を上にのせて隠す。私も食べたいから隠さなくていいよ。

遅めの昼食に夫があんかけ焼きそばを作ってくれて、それを食べる。休日の昼食として正解すぎる。パフェはおやつ扱いです。

百万年書房の北尾さんが「『珍獣に合鍵』(早乙女ぐりこ)、おもしろかたった!!」とツイートしてくれていた。

追加の献本を発送して、夫とマリオカートなどをして遊ぶ。

まりから送られてきたLINEに「ちんかぎもいよいよ発売だな!!」と書かれていた。『珍獣に合鍵』略してちんかぎ。うっかり頭の中でカタカナと漢字に変換し笑ってしまった。

夜は、先週西荻窪で買ってきたスパイスを使って夫と一緒にスパイスカレーを作る。私が大量の玉ねぎとにんじんとじゃがいもと生姜を切り刻んでいる間に、夫は刻み終わった玉ねぎを飴色に炒めあげて鶏肉をこんがり焼き付けていた。どちらもレシピには書かれていない工程で、そういう一手間を惜しまない夫を私は尊敬している。夫は夫で、野菜を次々と楽しそうに切り刻み、洗い物をどんどん洗う私を、ありがとうごめんねと労ってくる。互いに得意な作業が被っていなくてよかったね。できあがった大量のスパイスカレーをひとまず置いておいて風呂に入り一眠りする。そのうちに空腹がやってきて、カナメストーンがカレーを食べている動画を見ながらスパイスカレーを食べた。食後に、ロッキーからもらったハーブティーを飲んでマルセイバターサンドを食べた。食べ過ぎな気もするけれどいい一日だった。

1月26日(月)

昨日のツイートがあったからか、北尾さんが夢に出てきた。

朝食は昨日のお昼のあんかけ焼きそばの残りを食べる。コーヒーを飲んでロッキーからもらったチョコ掛けのプレッツェルを食べる。満ち足りる。

先週末に引き続き仕事が猛烈に忙しくて、諸々を必死にこなす。昼食はささみの甘辛だれと塩だれキャベツと卵焼きのお弁当。ボリューム満点で彩りがよくて楽しいお弁当。昨日川崎大師の参道のごま専門店で買ったごま辣油ふりかけがごはんにかかっていて、これもおいしい。

頭痛がするのでロキソニンを飲む。

午後もばたばた忙しい。夕方、イレギュラーな仕事。イレギュラーだけど、自分の持っているものを全部出してがんばりたいようなそんな仕事。別に仕事に限ったことではないけれど、受け身の姿勢で座って待っているだけでは見えないもの、自分から立ち上がって求めに行ったときにだけ目に見えてつかみとれるものがきっとあるんだと思う。そのことを目の前にいる人に伝えたいと思うけれど、まっすぐ立って私に全力でぶつかってくるその人はきっとそのことをもう知っていて、私が日々教えられているのだとも思う。

残業して、夫より遅く帰宅。夕飯は昨日のスパイスカレー。ありがとうカレー。昨日食べたときよりさらに辛くなっている気がする。でもそれがいい。

1月27日(火)

パンのいいにおいで目覚める。夫がホームベーカリーでパンを焼いていた。朝食は焼きたての食パンとスパイスカレーとコーヒー。

そろそろなくなりそうだなと思っていた化粧下地が、いよいよ完全になくなってしまって困る。実はクッションファンデーションも、もう液がなくなってきてスポンジがかぴかぴになっている。何で顔面をカバーすれば良いのか、途方に暮れる。

今日も引き続き忙しい。わずかな隙間の時間にいろんな仕事をパズルのようにはめ込んでなんとか全てを間に合わせる。

昼は夫が用意してくれたサンドイッチ弁当。サンドイッチが大きすぎて弁当箱の蓋がしまっていない。朝焼き上がった自家製の食パンで卵フィリングとハムとレタスがサンドされていて、スパイシーなジャーマンポテトとミニトマトが隙間に詰められている。パンがふかふかで具材たっぷりのサンドイッチがとてもおいしい。へろへろだったけれど元気になった。頭痛とめまいがするのでロキソニンを飲んで午後もがんばる。

なんとか退勤してキックボクシングへ。人が多くて酸欠になりそう。

夫に2月3日は仕事が休みだと告げたら、本の発売日だし休めてよかったね、と言われた。発売日はごちそうを食べたりするの? とも聞かれてとても困惑する。そういう予定はないよ、執筆中にいっぱい迷惑かけてしまったし、お祝いにごちそう食べようとかそういう気持ちになれないよ、と答える。すると夫は、平日だからその日は無理でも、別の日にお祝いはしよう、と言ったので私は驚いた。去年の今頃、2冊目の本を書くことになったよ、と伝えたときに「ぐりこがまた忙しくなるのかなと思うと、不安な気持ちもある」と言われたので、出版=お祝いすべきことだと、思ってくれていると思わなかった。夫にとっては私の出版は喜ばしいことではない、と思いこんでいたので、執筆の進捗も、執筆を終えて本が形になるまでのあれこれも、訊かれなければ夫に伝えようとしなかった。

本当は一緒に喜んでほしかった。内心は複雑なのかもしれないけれど、お祝いしようと言ってもらえてうれしかった。

髪を乾かしてもらっているときに涙が出てきたので、顔をうつむけて手の甲でごしごしこすった。