珍獣日記③(2026.1.11~1.21)
来る2026年2月3日、KADOKAWAより私の初の長編小説『珍獣に合鍵』が発売されます。この「珍獣日記」は、『珍獣に合鍵』をたくさんの方に手にとってもらえたらいいなという願いを込め、発売日までの期間限定で公開を前提に執筆したものです。

1月11日(日)
8時頃起床。風邪は、無限鼻水編に突入だ。
夫が、レンチンして柔らかくした餅に牛乳と砂糖と塩を混ぜて焼いて、餅フレンチトーストを作ってくれた。はちみつとバターがのせられ、りんごが添えられている。猿田彦珈琲で買ってきたビターブレンドも淹れて休日の優雅な朝食だ。
食べ終えて掃除機をかけて、夫とSwitch2で五目ならべをしてからひたすら原稿を書いた。飽きたタイミングでT2の紅茶を淹れ、おやつに塩バターどら焼きを食べる。そしてまた原稿。
昼食は作り置きの春雨サラダと鶏肉と蓮根の甘酢揚げとごはんを食べた。血糖値が上がりすぎたのか、なぜか一気に具合が悪くなりベッドで爆睡する。
起床して品川ステラボールへ。Hello! Project 2026 Winter -White tales-。前回より番号が後ろの方だったので、夫と別れて女性限定エリアで観覧することに。とても見やすくてよかった。
好きなハロメンが増える一方だ。
外に出て、夫と合流して冷凍うどんを買って帰った。昨日のほうとうのスープにうどんを入れて、もりもり食べる。
1月12日(月)
出社しなければならない日。早起きする。世間は三連休なのに二日も働いてしまう。
休みの夫が朝食を用意してくれる。ほうとうのスープとごはんと梅昆布と鶏肉とれんこんのおかず。コーヒーも淹れてもらったけれど、起きたのが遅くて時間がなくて慌てて立ったまま飲み干して出かける。
うっかりカバンの中に昨日のハロプロサイリウムを入れたまま一緒に出勤してしまった。
虚無のお仕事をする。新しいシステム運用でどたばたしている。
帰宅して夫とちょろっとマリオカートをやった後で、苦戦していた原稿を集中して進めた。やっと形が見えた、と思えてほっとする。ここで一晩寝かせることにする。肩こりがひどくて吐き気がする。
夕飯は、夫が作ってくれた長谷川あかりレシピの長芋と豚肉のカレー。付け合わせに小松菜のマスタード和えと白菜の塩昆布和え。12月はあんなにもMー1一色の生活をしていたのに、年が明けてからまったく触れていなかったので2008年のMー1を観る。オードリーが準優勝だったときのやつ。地上波で子どももまだ起きている時間に放映していたはずなのに、サンタクロースはいないなんていう話が出てくるネタをやっているコンビがいてぎょっとする。
観るのを途中で中断して、夫が弁当用にたれにつけ込んだ豚バラの塊肉をこんがり焼き付けてチャーシューを作っていた。当然味見を要求した。チャーシューは別腹。自家製チャーシューは正義。
年が明けてから一切外食をしていないことに気づき驚いた。けれど、これまでの人生で外食でしか食べられないと思い込んできたうまいものを夫が次々作るので、それほど外食への渇望のようなものがわいてこない。でもタムジャイサムゴーには行きたい。
入浴中くらいからずーんと気持ちが落ち込んでしまう。体調が戻らない。本を読みたいのに読めない。文章を書きたいように書けない。
ここから新刊発売日が近づいてくると、より一層ナーバスになることが予想されます。
1月13日(火)
どんより起床。朝食も弁当も夫が用意してくれた。朝食はごはんとしそ昆布、お麩としいたけとねぎの味噌汁。コーヒーを淹れて、山形土産のそばかりんとうを食べる。黒のあったか綿に暗幕のようなワンピースを重ね、黒いタイツを履いて、見るからにどんよりした格好でどんより出かける。
その日の気分で言うことがころころ変わる上司が先日と矛盾することを言ってきた上に、その矛盾の解消を私に求めてきたので避難した。非難はしていない。無限にコーヒーが出てくる場所に避難した。
昨晩からのどんよりした気分を引きずったまま、発売が三週間後に迫った『珍獣に合鍵』のことを考える。既に予約してくれている人もいてとてもありがたい。
「ずっとまともじゃないってわかってる」と口の中で小さく歌っている。
お弁当は、チャーシューと卵焼きと小松菜のマスタード和えと白菜の塩昆布和え。チャーシューがごはんに合う。
好きな仕事をしているときだけ、ナーバスな気持ちを忘れられる。その代わり、たくさん喋って喉の調子が悪化してがらがら声になる。それから若干偏頭痛がする。
退勤してキックボクシングに行った。ずっと体調が悪くて行けていなかったので今年初。久々にしっかり運動して汗をかいたら肩周りがほぐれて気持ちも軽くなる。
帰宅して、夫が作ってくれた長谷川あかりレシピのトマトもずく鍋を食べた。あかりの数ある鍋レシピの中でもこれの登場頻度が一番高い。定番の具材に加えて春雨も入っていて、これが旨みを吸って大変よかった。
入浴してから昨日の原稿を通して修正し、参考文献の記載を整理し、全体を見直して日付が変わる頃に提出。やったった。
1月14日(水)
寝たのが遅かったので朝なかなか起きられず。夫が用意してくれた昨日の鍋の雑炊を食べる。クルミッ子切り落としを食べてコーヒーを飲む。
昨日送った原稿が無事通ってほっとする。急に身体と心が軽くなって、心なしか風邪の症状もよくなったような気がする。
午前中、私が出る意味が全然ない会議に出なければならず、ぼんやり過ごす。
昼食は自家製チャーシューのチャーシューエッグ弁当。居酒屋に行かなくてもチャーシューエッグが食べられるなんてなあ。
夕方歯医者の定期検診を予約しているので、昼食後に歯を一生懸命磨いた。付け焼き歯!!!
午後はイレギュラーな業務でばたばたしていた。合間に書肆imasuの平林さんと電話で打ち合わせ。
歯医者の定期検診は無事に終わった。歯茎からちょっと出血していますね、磨きすぎかもしれませんね、と言われる。すみません。怒られるのが嫌でさっき必死で磨きました。
歯医者近くのスーパーで夕飯と明日の弁当の食材を購入して帰宅。電車に乗らず、徒歩30分ほどの道のりをてれてれ歩いて帰る。歩こうと思えるだけ、元気になったんだなあとしみじみする。
帰って夕飯作り。年が明けてから、体調不良&原稿難航のダブルパンチで夫に料理を任せてばかりだったので挽回せねばならない。長谷川あかりレシピのバター酒蒸しハンバーグと、レタスと塩昆布のサラダを作る。去年バズったこのハンバーグを作るのはこれで3回目だが、バターをケチらずにちゃんとレシピ通り20g使ったらソースがたっぷりできてハンバーグもきれいに焼けて過去一番おいしかった。夫がいつまでも最後の一口を大事に残していていとおしかった。ハロステを観た。
1月15日(木)
出勤しない日なのに、出勤する日より早起きする。朝食と夫の弁当と夕食を全部一気に作ろうという算段。まずは冷凍うどんを解凍して、夫の弁当用に長谷川あかりレシピのトマト醤油焼きうどんを作る。卵焼き器で目玉焼きを2個順番に焼いて、きれいに焼けた方を夫の弁当箱のうどんの上にのせた。
それから夕飯用に大量の根菜を切って、ニンニクと一緒に焼き付け、小麦粉をまぶして水を投入する。夕飯に長谷川あかりレシピのブリと冬野菜の塩シチューを作るのだ。煮込んでいる間に朝食のお茶漬けの用意。夫が起きてきて一緒にお茶漬けを食べる。コーヒーを淹れて、コーヒーと一緒にサブリナを食べる。夫がサブリナをかじったときに花びら部分のパイ生地が崩れて床に粉々に散ったようになる。
サブリナを食べ終え、作りかけの塩シチューにブリを入れて仕上げをしようと思って、昨日買ってきたブリのあらを冷蔵庫から取り出す。レシピには「ブリ腹身2切れ」と書いてあったのだけど、昨日スーパーに行ったら切り身のブリが目玉が飛び出るくらい高かったので、ケチって安かったブリ大根用のあらを買ってきたのだった。パックを開けてみたら血まみれで、目玉がふたつぎょろりとこちらを見ていてびびる。可食部も少なそうだし血まみれだし、本当にこれをシチューに入れていいのか?と不安になる。夫に助けを求めたところ、「これはあら汁にしようか、夜俺が作るよ」と言ってくれたので、今日ブリの腹身を買い直すことに。
夫を見送り、やることを猛然とこなしていく。請求書申請をして、原稿の戻しを確認して、昨日OKが出た原稿に添える写真を数枚選んで送って、「珍獣日記②」を編集してアップした。それから来週取材でご一緒する作家さんの新刊のゲラを読む。
品川に「Black Box Diaries」を観に行った。事前に映画についてのいろんな意見や批判を目に入れてしまったし、内容的にもしんどいものであることがわかっていたので観るのがこわかったけれど、私は観てよかった。それでも、自分がこれまで経験してきたことや来月発売される本に自分が書いたことを考えるとまた気持ちが落ち込む。
昼食をどうしようと考えて、品川駅のecuteのカフェで鯖サンドを食べてコーヒーを飲んだ。久々の外食だ。外食は楽しみのはずなのに、胃がぎゅーっと縮こまるように痛くなり、それがブラックコーヒーを飲みすぎたせいなのか映画を観てあれこれ考えたせいなのかわからない。
表参道の服屋に行って、今月発売の気になっていた柄ものの服の実物を見る。ネイビーとブルーとグレーの斜めストライプにところどころ差し色が入っている。スカートが不思議な台形をしていて、履いてみたら想像以上にかわいくてよかったのでそれを買った。おそろいのトップスや無地のカーディガンは我慢したのでえらかった。
ブリを買って帰宅して、先月受けた取材の原稿を確認して返信して、ゲラの続きを読んでいたらKADOKAWAの担当編集さんから電話。驚くような報告を受けて、何が何だかよくわからないという気持ちになる。
塩シチューに切り身のブリを投入して完成させてからキックボクシングに行った。帰ってきて、夫と一緒にシチューを食べた。
風呂上がりに夫が、私がケチって買ってきた挙句に使わなかったブリのあらで山盛りのあら汁を作ってくれていたので、私はその間に洗濯物を干してトイレと洗面所の掃除をした。「とってもおいしそうにできたからもう落ち込むことないよ」と言われる。ブリのでかいふたつの目玉は夫の手で取り除かれ、血もきれいに洗い流され、ぐつぐつ煮込まれていた。
1月16日(金)
降って沸いた在宅勤務日。小躍りしながら台所の夫に報告しにいく。朝食はブリのあら汁とふるさと納税の梅干しと炊きたてご飯。いい朝食過ぎる。
既に弁当も用意されていた。出勤しないのにテーブルの上に自分のお弁当があるので、遠足の日に風邪をひいてしまった子どもみたいな気分になる。
来週対談する作家さんのゲラを読み終える。同じ作家さんの既刊も読む。やっぱり面白い。お話しできるのが楽しみだ。
ちょろっと仕事をした後、昼になるのが待ちきれず、弁当を食べる。ネギ塩豚カルビ弁当。在宅の特権で皿に取り分けて温めて食べる。
山手線と京浜東北線が復旧したのを確認して出かけた。コートがいらないくらい暖かい。マスク越しに花粉の存在を感知する。
昨日品川駅でRecipeのポップアップストアを見かけて気になっていたので、今日改めて見に行った。何足か試し履きした後でシンプルな黒のパンプスを購入。手持ちのぼろぼろのパンプスたちを捨てたくて捨てたくて仕方なかったのでよかった。
最寄り駅に戻って気に入りの喫茶店に行ったら満席で、お高めだけど居心地のいいチェーン店も行列ができていて、結局、駅ナカの適当なカフェで仕事をした。そして日記を書いた。
閉店間際の味噌専門店で白味噌と赤味噌を購入し、スーパーで食材を購入し、パン屋でコーヒー豆も購入して帰宅。担当編集さんから連絡が来て、本屋さんに連絡をする。
長谷川あかりレシピの鶏の梅胡椒揚げを作る。人生で揚げ物はほとんどしたことがなかったのに、長谷川あかりレシピで唐揚げ的なものを度々作るようになってから随分慣れた。この梅胡椒揚げも4回目くらい。梅干しの味で出来が決まるな。
ハロプロ研修生発表会の配信を観る。ひそかに推している根本花凜ちゃんは相変わらずめちゃくちゃよかった。我々もがんばらねばねという気持ちになる。私が洗濯物をたたみ、夫が夕飯の洗い物をする。
Recipeで購入した靴を夫に見せたら、今朝Googleのサジェストでこのブランドの靴がおすすめという内容の記事を読んだばかりだと言う。歩きやすいらしいよ、と私に伝えようと思っていたらしい。自分の意思でしたはずの行動もAIによってコントロールされていそうでこわい。
1月17日(土)
久々に中途覚醒せず朝まで寝た。体調がよくなってきた。中学の演劇部で都大会に行ったときの劇を再演する夢を見た。同じ役だからと、練習しないどころか台本もろくに見直さないままリハーサルを迎え、台本を持ったままステージに立っていた。
朝食はあら汁としそ昆布と白いごはん。コーヒーを飲んで、因島で買ってきた干し柿チョコを食べる。干し柿もチョコも好きだけれど、これは別で食べた方がいいねと言い合う。
昨日買った靴を履いて出勤。長距離を歩いても足が疲れないし痛くならない。
若い頃、自分の足に合う靴がずっと見つけられなかった。歩き方や姿勢をおかしくして、いつも足や腰が痛かった。自分に合う服や靴を見つけて自分のお金で買えるようになっただけで長く生きてきてよかったよと思う。
出勤が久々でふわふわした気持ち。ふわふわぼんやりしたまま仕事。来週、写真撮影ありの取材があるので、そのときに使う仮面をAmazonでポチる。
13時過ぎに夫が作ってくれた生姜焼き弁当を食べた。キャベツの塩漬けと生姜焼きと、ツナと塩昆布の混ぜご飯。
午後は少しだけ自分を取り戻してしゃんと働く。退勤が遅くなる。夫とスーパーの前で待ち合わせて、食材を一緒に買って帰る。先にスーパーに着いていた夫から「チワワがご主人を待ってる」とLINEが来たので急いで向かったけれど、私が着いたときにはもうチワワとご主人がいなくなっていて残念だった。
帰宅して茶を飲み、明日の西荻窪お出かけデートプランを7色ペンで一筆箋に書いていった。それから長谷川あかりレシピの春菊と牡蠣のカレーとにんじんグラッセを作る。私はにんじんグラッセの味付けを任されたが、にんじんをレンチンした後に水切りをするのを忘れて調味料とバターを入れてしまって落ち込む。マリオカートをやって早めに寝た。
1月18日(日)
8時起床。夫より先に起き出して長谷川あかりレシピのブッラータチーズとナンプラーののせごはんを作る。この日のために花畑牧場のブッラータチーズとレモンを買っておいたのだ! 母からもらったパウチのアスパラポタージュスープも温める。ブッラータチーズとナンプラーののせごはんを作るのは二度目だが、相変わらずおいしい。
寝過ぎたせいかふたりとも頭が痛かった。ロキソニン投入。紅茶を淹れて大師巻を食べて、のんびり支度を開始する。早めに家を出て西荻窪へ。
まずは食事系パフェが有名なTypicaへ。開店20分前で既に5人くらい並んでいた。コーヒーとパフェをそれぞれひとつずつ頼む。私は冬の味覚のパフェとコロンビア。家では深煎りばかり飲んでいるけれど、ていねいに淹れられた浅煎りコーヒーも紅茶のように華やかでとてもおいしい。
夫が頼んだ林檎とチーズのパフェが先に運ばれてくる。林檎とクリームチーズにローズマリー、ふうんこちらは王道なのねと思っていたら、てっぺんにあつあつのミートパイがのっていて度肝を抜かれる。このミートパイを一口もらったら大変おいしかった。カレー味のアイスなども入っていて見た目よりかなり個性的だった。
しばらく経って私の前に運ばれてきた冬の味覚のパフェは、てっぺんにかりかりに揚げた牛蒡がささっていて、バター醤油白子春巻きがのっていた。どちらもあまりにも私好みの居酒屋メニューすぎる。濃い味だけれどさっくりとした春巻きがものすごくうまい。その下で春菊の入ったアイスや味噌味のアイスが少しずつ溶けだして、グラスの中に身を隠していたベビーホタテや牡蠣に絡む。自分がいまいったい何を食べているのかどこにいるのかわからなくなって脳が混乱するけれど、口の中は間違いなく幸福である。大好きな焼き餅やごま豆腐なども入っていて満足度が高かった。居酒屋欲まで満たしてくれるすてきなパフェだった。それなのに完成度が高いので酒を必要としない。
お代わりパフェも気になったが退店。象が宙づりになっている商店街を通り抜けて、古着屋をひやかしたりスパイス料理専門店でドライフルーツとスパイスを買ったりする。それから北口に移動してまた古着屋を見た。ototoharuでシルクの柄シャツがツボに入り、夫も私も一枚ずつ購入した。
駅前の今野書店で国内旅行のガイドブックを眺め、3月に奄美大島に行くことを決める。ガイドブックを2冊購入してからパンの田島へ。私はチーズ入りビーフシチューの揚げパンセット。空腹だったのでもりもり食べる。奄美大島旅行の、飛行機とホテルとレンタカーがのついたツアーを早速申し込む。
帰宅してゲームして、昨日のカレーを食べて寝た。いい一日だった。
1月19日(月)
朝食にコーヒーを淹れて、昨日田島でテイクアウトしたコッペパン2つを半分ずつ食べた。つぶあんとホイップクリーム、林檎とカスタード。ボリューム満点でずっしりしていて苦しくなる。
出勤して黙々と仕事をこなす。昼食に夫が用意してくれた弁当を食べる。生姜焼きと卵焼き、ちくわとキャベツをマヨで和えたおかず。
隣の席の上司がいびきをかいて寝ていたのではらわたがにえくりかえる。真顔でAmazonのサイトを開き、気になっていたLOOPの耳栓を即決で購入した。
早めに退勤して北浦和の鍼灸院・豊泉堂へ。ここに通い始めて丸3年。毎月欠かさず通っている。毎月欠かさず会う人なんて、行きつけの美容院のMさんとこの鍼灸の先生だけだ。この3年間の間に、私は10年ぶりに男と付き合い2か月で別れマッチングアプリを始めそこで付き合った男とも2か月で別れ初めて文芸誌にエッセイを寄稿し初めての商業出版本を出し勢いで再婚もし随筆の雑誌の企画編集に携わり50センチ伸ばした髪をヘアドネーションした。そして、この度2冊目の商業出版本にして初小説を出す。
それらのことを、美容師のMさんには逐一話しているのに、鍼の先生には何一つ話していない。自分の出した本や寄稿した雑誌を先生に献本しようと思って持っていったこともある。でも結局、その本を鞄から出せないし何も言い出せなかった。見せるのは凝り固まって肌荒れした背中だけでいい。
覚悟はしていたが、風邪をこじらせたり肩こりの症状が強かったため、鍼はここ数回のうちで一番痛かった。
外に出ると冷たい風が頬を切りつけてくるようだった。施術が終わった直後は体調に問題はないと思ったけれど、帰りの電車に乗る頃には身体がふらついていた。
迷わず浦和で高崎線に乗り換えてグリーン車に乗る。しかし乗った電車が上野駅止まりで回送になる電車だった。もっと先まで行きたかったのに上野駅の陸の孤島のようなホームに降ろされて愕然とした。奇しくも上野駅のその、他の路線から離れたところにあるホームは、私が前夫と別居して浦和に住んでいた頃に、乗り換えによく使っていたホームだった。毎日毎日、十数時間の勤務を終えては上野駅のそのがらんとしたホームのNewDaysで思考停止したままスーパードライの500ML缶とさけるチーズを買い、グリーン車に乗り込んで酒を身体に流し込みながら浦和まで帰っていた。そんな心身ともにぼろぼろだった時期を昨日のことのように思い出してしまい、溺れているような息苦しさがよみがえってきて、ただでさえ体調が悪かったのに余計に具合が悪くなってしまった。
グリーン車で家の近くの駅まで帰ることを諦め、山手線に乗り換えて帰宅。
家に帰ってくればもう大丈夫だ。夫がミネストローネ風の鍋を作ってくれていた。食べ終えて、風呂が沸くまでの間、ベッドで横になっていた。
1月20日(火)
朝起きても体調の悪さが残っていた。頭痛がするのでロキソニンを飲む。昨日の鍋にうどんを入れて和風に味変したものを食べて、しばらくソファに転がっていた。
なんとか出勤。仕事でどたばたする。どたばたする合間に今日のことと明日のことと来週のことをやる。それが仕事だ。
昼に夫が用意してくれたすき焼き風の味付けのおかずがたくさん入った弁当を食べる。肉、白滝、しいたけ、豆腐、ねぎ。それから卵焼き。
昼頃には体調が回復してきた。めいっぱい働き、夜はキックボクシングに行った。人数が多かったけれど、サンドバッグとミットを交互に繰り返していつもよりも運動量が多いくらいだった。
帰りにぼうっと歩いていたら道を間違えた。もう3年も通っている場所なのに、わずか徒歩15分の道なのに。
帰宅したら白菜のうま煮鍋ができていた。もりもり食べて、洗濯ものをたたみながらアンジュルムの動画を観た。爪をOSAJIの〈いまそかり〉で塗った。きれいなオレンジになって満足。
1月21日(水)
朝食は昨日の鍋の卵雑炊。コーヒーを淹れ、西荻窪のスパイスの店で買ってきたドライフィグを食べた。ドライフルーツが好きすぎる。
出社する夫を見送り、自分の身支度をする。今日は大好きな作家さんとの対談取材の日。Amazonで今日のために購入した仮面に合わせて洋服を決める。取材の日はいつも、化粧をしながら、化粧を頑張っても別に顔は出さないんだよなと思う。とはいえ、化粧が自分自身のモチベーションのスイッチというか、オンオフを切り替える儀式でもあるので、やはり張り切って化粧をする。ただしヘアオイルはつけ忘れた。
支度を終えて、対談に向けて用意した資料の最終確認をする。中央・総武線が遅れているという情報を得て早めに家を出た。
エコバッグに、今日対談する作家さんの新刊のゲラと既刊と中華風の白塗りの仮面とサイリウムとオレンジのシリコンバンドが入っている。持ち物が謎すぎる。
代々木まで来て総武線に乗り換えようと思ったらまだダイヤが乱れていて、ちょうど電車が行ってしまったところで、次が何分後に来るかわからなくて、パニックになって改札を飛び出て闇雲に走りまわったけれど、タクシーは通りかからず、アプリで迎車を呼ぼうにもそれも時間がかかりそうで、ひとまず落ち着いて総武線の運行状況を確認しようとまた走って駅構内に戻ってさっきのホームに駆け上がったらちょうど乗る電車が来たところだったので、何食わぬ顔でそれに乗って飯田橋のKADOKAWA富士見ビルに向かった。結果的に担当編集さんに言われていた時間通りに着けてほっとした。
日当たりのよい会議室で、みなさんと名刺交換をして対談開始。事前に質問項目をもらっていて、答えを用意していったのに、実際にその質問を投げかけられるとあわあわしてしまう。話すのが下手だなあと毎度思う。そして、話すのが上手かったら文章書いてないよなあとも思う。
それはそれとして大好きな作家さんとゆっくりお話ができて、直接質問をしたり自分の初小説『珍獣に合鍵』の感想をうかがえたりしたのは大変うれしく、幸せな時間だった。持参した仮面をつけて撮影をする。仮面と服が合っていますね、と言っていただき、仮面に合わせて服を選びました、と胸をはった。
仮面をつけるととても安心感があった。これまで、誰でも見られるインターネットや誌面上の顔出しだけをNGにしていて、トークイベントなどや文フリなどには普通に顔を隠さずに出てきたのだが、そのせいで向けられたカメラにひやひやするくらいなら、今後はトークイベントなどもこういったもので顔を隠して出るのがいいのかもしれないなと思った。
飯田橋のドトール珈琲店でひとりで昼食。蓮根と海老のトマトクリームパスタを食べてコーヒーを飲む。日記を書いているうちに、対談でふわふわ舞い上がっていた自分が地面に降りてくるかんじがする。
午後出社してイレギュラーな業務をする。今度は、会社名の入った本名の名刺を取引先の人と交換する。うっかり早乙女ぐりこですと名乗らないように細心の注意を払った。マイクを持って人前で話した。
それから長い長い会議に出る。会議で長々と自分語りをする人は、全員友達がいないに違いないという偏見がある。
諸々の仕事を爆速で片付ける。購入したLOOPの耳栓は、雑音が小さくなって大変よい。これで、今度上司がいびきをかいても寛大な心で受け止められそうだ。
大急ぎで退勤。アンジュルム・伊勢鈴蘭さんのバースデーイベントのため、めぐろパーシモンへ。なんとか無事に間に合って一安心。オレンジのシリコンバンドとオレンジの石の指輪を装着してサイリウムを準備する。
最初の曲が勝田里奈さんの卒業ソング「とっておきのおしゃれをして」だったので不意打ちを食らって腰が抜けるかと思った。伊勢さんが優雅に踊るとバレリーナのようにふんわり広がる白いドレスがとても美しい。「だって 生きてかなくちゃ」「ふわり、恋時計」がどちらも彼女の柔らかくも芯の強い雰囲気に合っていてすばらしかった。
MCの一言一言に、グループのメンバーに対する思いやリーダーになってからの彼女の努力がにじみ出ていて、もらい泣きをしまくる。伊勢さんがリーダーになってから古本屋で手に取ったのが「メンバーの能力を引き出す本」的な本で、その本に前の持ち主の書き込みがあって、悩んでいるのが自分だけじゃないと思えて救われた、という話が聞けてとてもよかった。
その話の後の「君だけじゃないさ…friends」、そしてラストの「愛は勝つ」。よいセトリすぎた。ラスト2曲、伊勢さんはたくさん泣いていて、「愛は勝つ」で伊勢さんが歌えていない部分は客席みんなが大きな声で歌ってつないでいた。伊勢さんは、曲を届けたかったのに泣いちゃって悔しいと言っていたけれど、ちゃんと届いているし本当にたくさんの愛を受け取っている。最後に、伊勢さんがアカペラで「愛は勝つ」のサビをやり直していたときの歌声が本当に伸びやかでホール全体が包み込まれて一体になってすてきな空間だった。
お見送り会でもまだ泣き顔をしている伊勢さんに見送られてホールの外に出た。明るいところで見ると、オレンジ色の服を着たオタクたちもみんな泣いていた。
開演前に配られた写真入りのカードに、伊勢さんは直筆で一枚一枚全部内容の違うメッセージを書いてくれていて(昼公演と合わせて2000枚以上!)、自分の手元に来たメッセージを見て、私も『珍獣に合鍵』のサイン本に書く言葉は全部違う内容にしようと心に決めた。
離れた席で同じ公演を見ていた夫と合流し、最寄り駅のスーパーで食材を買った。買った食材を私のエコバッグに入れようとして、そこに入っていた仮面を見つけた夫が、え、なにこれ、とぎょっとしていた。驚かせてごめんよ。
めまぐるしい一日だった。服を着替えるように、仮面を付け替えるように、うまく切り替えができたらいいのになあと思う。自分ではなんとか調整してうまく切り替えて立ち回っているつもりでも、実際には周りの人に迷惑をかけたり驚かせたり落ち込ませたり、してしまっている。
私、ペンネームも本名も両方ひっくるめたただの私という存在が持っているなけなしの資源、例えば時間やら貯金やら何かしらの能力やら培ってきたスキルやら人当たりのよさやら、まあその他いろいろの、人の役に立ったり立たなかったりするあれこれを、カードゲームのトランプのワンセットのようなものだと想像してみる。計54枚の手持ちのカードを、仕事と執筆と家庭生活と趣味と交友関係に、分配、分配、分配、分配、分配していく。私は「執筆」のところにたくさんのカードを置きたい。それも、出来ればいいカードを置きたい。でも、そのせいでジョーカーを置く場所が固定化されてしまったら、あるいはカードを振り分けられない場所が出てきてしまったら、それはそれで長い目で見てみたらよくないことだろうとも思う。なんらかの理由で私のそばにいてくれる人は、私の手持ちの54枚のうち、何枚くらいのカードが、そして何のカードが、自分の前に置かれたら満足するだろう。そして、たとえば手持ちのカードがすっかり失われたとき、私に何が残るのだろう。そんなことを眠りに落ちる前に考えた。

